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44年間耕した畑に突然の競売通知|抵当権があっても取得時効は成立する?

2026 8/21
令和5年度
2026年8月21日
出題年度
令和5年度
問題番号
問6
選択肢
肢ウ
大分野
権利関係
テーマ
時効
最終確認日
2026年8月21日

今回の問題

A所有の甲土地について、Bが所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば正しいか。

Bの取得時効完成後、Bへの所有権移転登記がされないまま、EがAを債務者として甲土地にAから抵当権設定を受け、その登記をした。その後、Bが引き続き占有を続け、Eの抵当権設定登記の日を起算点としても時効取得に必要な期間を満たした場合、BはEに対し、再度の時効取得をもって抵当権の消滅を主張できる。

物語

作業着の男が差し出した通知には、見慣れない金融会社の名と、赤い太字の期限があった。
桂木明は紙から顔を上げ、用水路沿いの土地に目をやった。
娘夫婦に継がせるつもりで建てた小さな直売所と、亡くなった妻の名を付けた新品種の母樹が目に入った。
通知は、金融会社がその土地の抵当権を実行し、競売にかける手続を始めたという内容だった。
驚いたことに、土地の所有者として記されているのは桂木ではなく、篠原という男だった。
桂木の後ろでは、測量の係が三脚を立て、木の幹に番号札を結ぼうとしていた。
畑の写真を撮り、売却に向けた資料を作るという。

「ここは私が買った土地です。篠原さんの土地ではないはずです」
桂木は家へ戻り、古い茶箱から売買契約書を取り出した。
1979年、離農する沢辺という農家から、家と梨畑をまとめて買ったときのものだった。
手描きの図が添付され、南端は用水路、東端は石垣と記されていた。
その位置には実際、昔から境界標があった。

代金を払い終えた桂木は、自分の土地として柵を立て、苗を植え、農協へ梨を出荷した。
近所の子どもたちを収穫体験に招き、農協の検査員には栽培区画を案内した。
誰かから借りたことも、使用料を払ったことも、誰かに出ていけと言われたことも、一度もなかった。

四十四年もの長い間この土地で梨を作り続けていたところへ突然、抵当権実行の通知が届いたのである。

桂木は通知を持って竹ノ宮駅から5分ほど歩いたところにある、古いクリーニング店の上の弁護士事務所を訪ねた。
中に入ると、窓際に等間隔で写真が並べられた部屋へ案内され、しばらくすると中年の男の弁護士が入ってきた。
弁護士は法務局から取り寄せた土地の記録と、桂木の売買契約書の上端をきれいに揃えて机に並べた。
淡々としているのに不思議と頭に入ってくる説明で、桂木は驚くべき事情を知った。
沢辺から買った梨畑のうち、用水路沿いの一画だけは、登記上は昔から篠原家の土地だった。
売買契約書の図では一続きの梨畑になっていたが、その一画だけ登記から漏れていたようだ。

「でも、1979年からずっと私の土地として使っているんです」

弁護士は空中で年を数え、ひと言言った。
「1999年。」
桂木が占有を始めてから、ちょうど二十年が経った年だった。
桂木はその二十年間、土地を自分のものとして、人目を避けることも争って奪うこともなく使い続けていた。
桂木は少し表情を緩めた。
「だったら、やっぱり私の土地なんでしょう。時効取得ってやつですよね?」

「1999年時点ではおっしゃるとおりです。ただ、続きがありまして」
弁護士が次の書類を、今度も上端をきっちり揃えて置いた。

2002年6月14日。
篠原は金融会社から三千万円を借り入れ、その担保として、この土地に抵当権を設定していた。
金融会社の抵当権登記も、記録にはっきり残っていた。

桂木にはまったく覚えがなかった。
金融会社から連絡を受けたこともなかったし、担保調査で誰かが畑を見に来ていたとしても、日々出入りする農協の職員や業者と区別がつかなかった。
桂木は抵当権が設定されたこと自体、二十一年後の今回の通知まで知らなかった。
「でも私の土地になった後から付いた抵当権なんて、無視できるんじゃないですか」

しかし、弁護士は首を振った。
桂木は1999年に時効によって取得した用水路沿いの土地の所有権移転登記をしてこなかった。
その間に金融会社が篠原から抵当権の設定を受け、先に登記を済ませている。
「この金融会社との関係では、先に登記を備えた方が優先されるんです」

弁護士の言葉を聞いて桂木は黙り込んだ。
金融会社にも言い分があるし、法律の定めはどうしようもないが、四十四年間ここで梨を作ってきたのだ。
「2002年の夏も、その翌年も、そのさらに次の年も、毎朝同じ門を開けて、梨の枝を剪定し、実に袋を掛け、秋には収穫したんです。台風で柵が壊れれば自分で直し、毎年春には用水路の泥をさらいました。農協への出荷もこの土地でできた梨だったんです。それでもダメなんですか。この土地は私の意思とは無関係に売り払われてしまうんですか」

桂木が言い終えるのを待ってから、弁護士はゆっくり言った。
「実は、さらに続きがありまして。桂木さんはもう一回時効取得してるんですよ」

弁護士から詳細を聞いた桂木は、翌日から茶箱の中の資料を集めた。
年度ごとの栽培日誌、苗木の領収書、台風の後に柵を直した写真、農協への出荷票。
隣の農家も、桂木が毎年その土地を使い、用水路を掃除していたことを書面にした。

その後、金融会社との裁判で、桂木は集めた資料を提出した。
抵当権が設定されても、桂木の占有は途切れていなかった。
何も知らないまま、以前と同じように、自分の畑として使い続けていた。
その事実が証拠として残っていた。

裁判所は、桂木による再度の取得時効を認め、金融会社に抵当権を消すための登記手続をするよう命じた。
競売の話は取り下げられた。

春、桂木は用水路沿いに新しい梨の苗を一本植えた。

解説

結論: この記述は「正しい」です。

桂木が1979年から20年間占有を続け、1999年に最初の取得時効が完成した後、2002年に金融会社が抵当権設定登記をしています。
さらに桂木は、その後も占有を続け、抵当権設定登記の日からさらに20年以上が経過しています。

したがって、桂木は再度の取得時効を抵当権者に主張でき、その効果として抵当権の消滅を主張できます。

なお、取得時効は、占有開始時に善意かつ無過失であれば10年ですが、それ以外でも20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に占有すれば成立します。
仮に桂木が抵当権設定の事実を知っていたとしても、変わらず自分の土地として梨を作り続けていれば、同じように抵当権の消滅を主張することができます。

法改正確認日
2026-08-21
出題年度・番号
令和5年度(10月)|問6|肢ウ
公式出典URL
https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2025/03/R5_qestion_answer%E3%80%80.pdf
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