今回の問題
個人Aが、①賃貸人Bと賃借人Cとの間の期間を2年とする居住用甲建物賃貸借契約に基づくCの一切の債務についてBと連帯保証契約をし、②売主Dと買主Eとの居住用乙建物売買契約に基づく代金支払債務についてDと保証契約をした。民法の規定によれば次の記述は正しいか。
①も②もAが主たる債務者C及びEの委託を受けて保証した場合において、Aが債権者B及びDに対して主たる債務の履行状況に関する情報提供を請求したとき、①のBは遅滞なく情報提供しなければならないが、②のDは守秘義務を理由にこれらの情報の提供を拒否することができる。
物語
業者から渡された冷蔵ケース修理費用の見積書を、三枝圭吾はしばらく見つめていた。
竹ノ宮マートの設備は全体的に老朽化が進んでおり、残りのケースもいつ壊れてもおかしくない。三枝は竹ノ宮信用金庫からの融資で資金調達をすることに決めた。
申込書の記載を進めていたが、「保証債務」の欄で手が止まった。三枝には、二つ心当たりがあったためである。
一つは、笹小径荘に住む西村拓海の連帯保証。
西村は以前、竹ノ宮マートのアルバイトとして働いており、三枝も可愛がっていた。母親を亡くしてから一人暮らしを始めたものの、まだ若く収入は多くない。ようやく手頃な部屋を見つけたとき、賃貸人の桂木明子から、連帯保証人が必要だと言われた。父親も数年前に亡くしていた西村には頼める親族がいなかった。
「三枝さんに迷惑をかけるようなことはしません」
連帯保証人になるということは、西村が家賃を払えない時には明子から直接請求されるばかりか、「先に西村から取るのが筋でしょう」とも言えないということだと、三枝は心得ていた。
それでも、三枝は契約書に署名した。
高校を出たばかりの頃から店で働き、母親の入院中も精一杯働いてくれた男だ。自分が名前を書かないことで住む場所を失わせるのは、どうにも三枝の性に合わなかった。
もう一つは、篠原修一の保証だ。
篠原は蓬莱倉庫街で小さな商売をしているが、決して景気のいい男ではない。何度か資金繰りに詰まり、そのたびにどうにか店をつないできた男だ。
その篠原が家族と暮らす中古住宅を買ったとき、売主の杉浦雅人との間で、保証人を立てることを条件に代金の一部を後払いにする話がまとまった。そこで、篠原が三枝を訪ねてきた。
三枝は断るつもりだったが、篠原には以前、竹ノ宮マートが仕入代金の支払いに困ったとき、一か月待ってもらった借りがあった。しかもこちらは連帯保証ではなく、単なる保証だった。もし杉浦が三枝に請求してきても、三枝はまず篠原本人に請求するよう求めることができる。
「今回だけだぞ」
三枝は、杉浦との保証契約に署名した。
融資申込書を前にしてその二つの保証債務の状況が急に気になった。これからしようとしているまとまった借入れに影響しないだろうか。もし西村や篠原の支払いがすでに滞っているなら…。知らないままというわけにはいかなかった。
三枝はまず、桂木明子に連絡した。
「西村、ちゃんと家賃ってますか」
保証人として確認したいと伝えると、明子は答えてくれた。
滞納なし。未払いになっている金額もなし。安心できる答えが返ってきた。
次に、杉浦雅人へ連絡した。
「篠原の支払いのことで確認したい。あといくら残ってる?期限を過ぎている分はあるか?」
杉浦は少し間を置いた。
「それは篠原さんの支払いの話ですよね。本人の取引内容を第三者に話すのはまずいでしょう。守秘義務ってものもありますし」
三枝は眉をひそめた。
「払えなくなったら、俺に請求するんだろ?そうしたら教えてるも同然じゃないか。」
「それと、今の支払い状況を教えることは別じゃないですか」
その日はそこで電話が切れた。
三枝には腑に落ちなかった。数百万円の設備資金を借りようというのに、自分が他にいくらの支払を抱える可能性があるのかも分からない。それでは店の資金計画など立てようがない。
三枝は、杉浦に改めて書面を送った。書面には、篠原本人から頼まれて保証人になったこと。保証している売買代金について、現在の残額、支払いが遅れている金額、すでに支払期限が来ている金額を知らせてほしいこと。以外に、余計なことは書かなかった。
数日後、杉浦から電話がかかってきた。
「三枝さん。この前の件なんですが」
前より声が小さかった。
「確認しました。保証人から正式に求められた場合は、こちらから情報を出さないといけないそうです」
篠原の支払いに遅れはなかった。残っている代金と、次の支払期限も教えられた。
三枝は電話を切ると、西村と篠原、二人分の金額を融資申込書の横に書き込んだ。
解説
今回、三枝は二つの保証をしています。
西村については、賃貸借契約から生じる債務の連帯保証人です。連帯保証人には、債権者から請求されたときに「まず本人に請求してください」と主張する権利がありません。
一方、篠原については、住宅の売買代金についての通常の保証人です。通常の保証人であれば、原則として、いきなり自分に請求された場合に「まず本人に請求してください」と主張できます。
このように、連帯保証と通常の保証では保証人の責任の重さに違いがあります。
しかし、今回のような「借金をどこまで返しているかについて教えてもらう権利」については、二つの保証の間に違いはありません。
このような保証人から聞かれたときは、明子だけでなく杉浦も、支払いを怠っているか、残額はいくらか、支払期限が到来している金額はいくらかといった情報を、答えてあげないとなりません。
したがって、問題文で記載されているような賃貸人の明子には情報提供義務がある一方、売主の杉浦は守秘義務を理由に拒否できる、ということはありません。