今回の問題
債務不履行に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、正しいか。なお、債務は令和2年4月1日以降に生じたものとする
債務の目的が特定物の引渡しである場合、債権者が目的物の引渡しを受けることを理由なく否定したため、その後の履行の費用が増加したときは、その増加額について、債権者と債務者はそれぞれ半額ずつ負担しなければならない
物語
「え、再配送に3万円もかかるんですか?」
家具店の配送担当からそう言われて、佐伯亮介は思わず聞き返した。
亮介は先週、郊外の家具店で大型のワインセラーを購入していた。店頭展示されていた一台限りの商品で、木目の扉に小さな傷がある代わりに、定価よりかなり安い。亮介はその現物を気に入り、代金もすでに支払っていた。
配送日は土曜日の午前中だった。
ところが当日の朝、久しぶりに会う友人から「一人キャンセルが出た」とゴルフに誘われた。予約の取りにくいコースだったこともあり、亮介は迷った末に出かけることにした。
「玄関先に置いてもらえばいいだろう」
「佐伯さん、今ご自宅の前なんですが、ご在宅でしょうか」
作業員から電話が入った時、亮介は友人の車の助手席で高速道路にいた。
「すみません。今日、出かけてしまって。玄関に置いておいてもらうことはできますか?」
「この商品はその対応ができないんです。設置場所まで搬入して、佐伯さんに確認いただくことになっています」
高さが胸ほどあるワインセラーは二人で運ぶ必要があり、配送には室内への搬入と設置まで含まれていた。
亮介は数秒黙ったあと、
「じゃあ、今日は持ち帰ってください。また別の日でお願いします」
と答えた。
「承知しました。ただ、再配送には別途3万円かかります」
「3万円?」
一度持ち帰った商品をもう一度届けるには、改めて車両と作業員を手配する必要があるという。
亮介は眉をひそめた。
自分の都合で一度断ったのだから、多少の負担は仕方がないとは思う。
それでも、商品を届けるのはもともと店の仕事だ。
「全部、僕なんですか?」
「再配送の追加料金は3万円になります」
「一度断ったのは僕ですけど、配送する義務はそちらにもあるわけで。追加分は半分ずつ、とはいかないんですか?」
自分の都合で増えた費用なのだから、ゼロにしてくれとは言わない。
だが、全額を自分だけが負担するというのは少し一方的に思えた。
作業員は少し困ったように、
「その点は私では判断できないので、店からご連絡します」
と答えた。
翌日、店長から電話があった。
「昨日の再配送の件ですが、追加でかかる3万円は佐伯さんにご負担いただくことになります」
「半分ではなく?」
「はい。昨日そのままお受け取りいただけていれば、発生しなかった費用ですので」
数日後、ワインセラーはようやくリビングに収まった。
追加で支払った3万円の明細を見ながら、亮介はつぶやいた。
「これで良いワイン買えたのにな」
解説
今回、家具店は予定どおりワインセラーを届けましたが、亮介が自分の都合で受取りを断ったため、再配送のための3万円が余計にかかりました。
亮介は「半分ずつが公平では」と考えましたが、この費用は、通常の配送費ではなく、亮介が受け取らなかったことで増えたものです。
当然、3万円は亮介の全額負担です。